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業務委託契約書

【実例付き解説】弁護士が介入すると契約書はどう変化する? システム開発基本契約:納入と検査

2023年5月9日

ビジネスの場で交わされる契約について、これまで契約書作成時の注意点や専門知識の必要性について解説してきましたが、実際に契約を交わす際、弁護士が介入するとどのようなアドバイスを受けるのか気になりませんか?

今回のコラムでは、過去事例に似せて作成した契約書を元に、トラブルの多い「納入」と「検査」に関連する条件をまとめた項を抜粋して解説していきます。

前提として、今回は委託者であるA社から受託側であるB社に対しシステム開発基本契約書案が提示され、B社が契約書にサインをしようとする段階で、弁護士がB社に対してアドバイスを行うという想定で解説していきます。契約書内ではA社を「甲」B社を「乙」としています。

「納入」に関する契約

早速「納入」に関する条件から見て行きましょう。先方から提示された契約書には「納入」に関して以下の内容が記載されており、一部の記載がB社(「乙」側 )にとって不利になる可能性があるため、弁護士はB社担当者に対して削除するようアドバイスしました。あなたがB社(「乙」側 )の立場だった場合、どの記載がリスクになるか分かりますか?チェックしてみましょう。

第8条(成果物の納入)

  1. 成果物管理型の個別契約において、乙は、甲に対し、本件業務の成果物を個別契約に定める納入期限までに検収依頼書(兼納品書)とともに甲の指定する場所に納入する。
  2. 次の各号の一つに該当する場合には、乙は、甲に対し、成果物の納入期限の変更を求めることができる。
    1. 甲による原始資料その他本件業務遂行に必要な資料、情報、機器等の提供の懈怠、遅延、誤りのため、本件業務の進捗に支障が生じた場合。但し、乙がこれらについて知っていたか、または知りえたにもかかわらず予め甲に通知しなかったときは除く。
    2. 甲が本件業務の内容を変更した場合。但し、当該変更が乙の責めに帰すべき事由に起因するときは除く。
    3. 天災その他の不可抗力により納入期限までに成果物を納入することが困難になった場合。

正解は・・・

さて、どの部分が不利になる可能性があるか解説していきましょう。正解は納入期限に関する条件に付帯する但し書きの部分です。(以下、赤字参照)

第8条(成果物の納入)

  1. 成果物管理型の個別契約において、乙は、甲に対し、本件業務の成果物を個別契約に定める納入期限までに検収依頼書(兼納品書)とともに甲の指定する場所に納入する。
  2. 次の各号の一つに該当する場合には、乙は、甲に対し、成果物の納入期限の変更を求めることができる。
    1. 甲による原始資料その他本件業務遂行に必要な資料、情報、機器等の提供の懈怠、遅延、誤りのため、本件業務の進捗に支障が生じた場合。但し、乙がこれらについて知っていたか、または知りえたにもかかわらず予め甲に通知しなかったときは除く。
    2. 甲が本件業務の内容を変更した場合。但し、当該変更が乙の責めに帰すべき事由に起因するときは除く。
    3. 天災その他の不可抗力により納入期限までに成果物を納入することが困難になった場合。

システム開発は業務の特性上、思わぬトラブルで納期が遅延してしまうこともしばしば。そのため、このようなシステム開発基本契約を結ぶ場合は、できるだけ納期変更の可能性を高めておく方が受託側であるB社(「乙」側 )にとっては有利なのですが、赤字部分の但し書きは納期が変更できない方向の規定であるため、残しておくと不利になってしまう可能性も出てきます。納入期限に関しては特にトラブルが起こりやすい部分です。見落としのないように確認しましょう。

「検査」に関する契約

同様に、「検査」に関する条件をチェックしてみましょう。以下の記載だけだと受託側であるB社(「乙」側 )にとっては不利な条件となってしまいます。どのような修正が必要か分かりますか?

第9条(検査)

  1. 甲は、前条に従い乙より成果物の納入がなされた日から別途、個別契約毎に甲乙間で定める期間(以下「検査期間」という。)内に検査を行い、合否判定結果を乙に通知する。
  2. 甲は、本件ソフトウェアが前項の検査に適合する場合、検査合格書に記名押印の上、乙に交付するものとする。また、甲は、本件ソフトウェアが前項の検査に合格しない場合、乙に対し不合格となった具体的な理由を明示し、修正または追加を求めるものとし、乙は、協議の上定めた期限内に自己の責任と負担において無償で速やかに本件ソフトウェアのを修補のうえ甲に納入し、甲は必要となる範囲で、前項所定の検査を再度行うものとする。但し、甲から乙に対する損害賠償請求権の行使を妨げないものとする。

正解は・・・

以下赤字のような追記が必要です。なぜ追記が必要なのか、細かく解説していきます。

第9条(検査)

  1. 甲は、前条に従い乙より成果物の納入がなされた日から別途、個別契約毎に甲乙間で定める期間(以下「検査期間」という。)内に本件ソフトウェアが仕様書又は変更仕様書(いずれも甲及び乙の捺印があるもの)が定める仕様を満たしているか否か検査を行い、合否判定結果を乙に通知する。
  2. 甲は、本件ソフトウェアが前項の検査に適合する場合、検査合格書に記名押印の上、乙に交付するものとする。また、甲は、本件ソフトウェアが前項の検査に合格しない場合、乙に対し不合格となった具体的な理由を明示し、修正または追加を求めるものとし、乙は、協議の上定めた期限内に自己の責任と負担において無償で速やかに本件ソフトウェアの契約不適合部分を修補のうえ甲に納入し、甲は必要となる範囲で、前項所定の検査を再度行うものとする。但し、甲から乙に対する損害賠償請求権の行使を妨げないものとする。
  3. 甲が第1項の検査期間内に同項の合否判定結果を乙に通知しなかったときは、検査に合格したものとみなす。

検査は「納入」に関連して双方事前に合意を得る必要があります。特に重要なのは検査時の「合否判定」の基準と期限をしっかりと定めておくことです。基本的には成果物の納入後、納入先で検査が行われ、検査で合格すると代金が支払われるといった契約がほとんどですが、何を持って成果物の検査結果を合格とするか契約書でしっかりと定めておかないと、あとから合否基準を変えられて納入を断られた場合、代金を受け取れないなどといったトラブルに発展する場合もあります。そのため、「仕様書が定める仕様を満たしているか否か」が合否基準となること、また、委託側の都合で中々検査が行われず、代金を受け取れないといったリスクを回避するため、納入から一定期間が経過した場合は合格とみなすことを条件として追記しています。

いかがでしたでしょうか?正解と解説を見なくても不利になる部分に気付けた!という方は、契約書の内容からリスクを想定し、しっかりとチェック出来ていますね。但し、実際に作成する契約書は事細かに条件を設定する為、何項にも渡ります。今回のようにたった2項チェックしただけでもリスクとなる落とし穴がたくさんある契約書。自分だけでチェックするのはちょっと不安・・・という方はぜひ、私達のような法律のプロを頼ってくださいね。

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このコラムを書いた人

高瀬芳明

高瀬芳明

略歴

  • 私立早稲田実業高校卒業、 東京大学 農学部卒業
  • 平成18年9月 司法研修所卒業・弁護士登録 横浜市内の法律事務所に入所し企業法務,不動産問題を主に取り扱う
  • 平成19年5月 破産管財人就任
  • 平成21年10月 相模原中央総合法律事務所設立
  • 平成25年6月 弁護士法人高瀬総合法律事務所設立