
支払いを引き延ばされ続けたら、いつ法的対応に切り替えるべき?取適法・フリーランス法で見る「3つの判断ライン」を弁護士が解説
2026年10月8日
「来月には必ず」「経理の都合でもう少しだけ」——取引先からこう言われ続け、気づけば数か月。関係を壊したくない気持ちから強く出られず、請求のタイミングを逃している事業者の方は少なくありません。
2026年1月に下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」へ改正施行され、2024年11月にはフリーランス法も施行されました。この2つの法律により、支払期限は「当事者の話し合い」だけで決まるものではなくなっています。本コラムでは、支払いの先延ばしに対して「いつ・何をきっかけに」法的対応へ切り替えるべきかを、判断ラインごとに解説します。
1. まず確認!あなたの取引に法律が適用されるか

取適法は、発注側と受注側の資本金または従業員数の差で適用が決まります。改正で従業員数の基準が加わり、資本金が小さい発注者との取引でも対象になり得るようになりました。
| 委託の種類 | 資本金基準(発注側/受注側) | 従業員基準(発注側/受注側) |
|---|---|---|
| 製造委託等 | 3億円超/3億円以下、または1千万円超3億円以下/1千万円以下 | 300人超/300人以下 |
| 役務提供委託等 | 5千万円超/5千万円以下、または1千万円超5千万円以下/1千万円以下 | 100人超/100人以下 |
フリーランス法は、従業員を使用しない個人・一人法人が受注側で、発注側が従業員を使用する事業者である取引に適用されます。資本金の大小は問いません。
2. 法律上の「支払期限」はいつか

どちらの法律でも、発注者は成果物・役務の受領日から60日以内(できる限り短い期間)に支払期日を定めなければなりません。フリーランス法では、支払期日を定めなかった場合は受領日が、60日を超える日を定めた場合は受領から60日を経過する日の前日が、支払期日とみなされます。
つまり「経理の締めの都合で」「入金サイクルが合わないので」という理由で60日を超えて支払わない状態は、相手の事情にかかわらずすでに法律上の期限を過ぎている可能性があります。
さらに取適法では、期日までに支払わなかった場合、年14.6%の遅延利息を支払う義務が発注者に生じます。
3. 法的対応に切り替える「3つの判断ライン」

1.法定の支払期日を過ぎた
この時点で、話し合いは「お願い」ではなく権利の行使に変わります。すぐに訴訟を起こす必要はありませんが、口頭のやり取りをやめ、支払期日・金額・未払いの事実をメールや書面で残す形の請求に切り替えてください。後の手続きで「いつから遅れていたか」を証明する材料になります。
2.支払約束が2回以上守られなかった/減額や大幅な分割を持ちかけられた
約束の反故が繰り返される、あるいは「半額なら今月払える」などの提案が出てきた段階は、相手の支払意思や資金繰りに問題がある兆候です。ここで内容証明郵便による正式な請求に進むのが一つの目安です。一方的な減額の受け入れは、取適法・フリーランス法上も問題になり得るため、安易に応じる前にご相談ください。
3.相手の信用不安の兆候が見えた
担当者と連絡がつかなくなった、他の取引先にも未払いがあると耳にした、事務所の移転や代表者の交代があった——こうした兆候がある場合は、時間との勝負です。他の債権者に先に回収されると、手元に何も残らないことがあります。財産を保全する仮差押えなどを含め、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
4. 法的対応の選択肢

段階や金額に応じて、主に次の手段があります。
- ・行政への申告・申出:取適法違反は公正取引委員会・中小企業庁等へ、フリーランス法違反は公正取引委員会等へ申し出ることができます。
行政による指導・勧告の対象になり得ますが、未払い金を代わりに回収してくれる制度ではない点に注意が必要です。 - ・内容証明郵便での請求:請求の事実と日付を公的に残せます。弁護士名で送ることで支払いに応じるケースもあります。
- ・支払督促:書類審査のみで進む簡易な手続き。相手が異議を出すと通常訴訟に移行します。
- ・少額訴訟:60万円以下の金銭請求で利用でき、原則1回の期日で審理されます。
- ・通常訴訟・仮差押え:金額が大きい場合や、財産の保全が必要な場合に検討します。
なお、請求できる期間には限りがあります。支払いを求められることを知ってから5年で時効にかかるのが原則のため、「そのうち」と先延ばしにしないことが大切です。
5. 「取引を切られたくない」というジレンマ

法的対応をためらう最大の理由は、今後の取引への影響でしょう。取適法・フリーランス法はいずれも、行政に申告・申出をしたことを理由とする取引停止などの不利益な取扱いを禁止しています。
ただし、法律で禁止されていても、関係がぎくしゃくするリスクがゼロになるわけではありません。「どこまでなら関係を保ちつつ請求できるか」「どの時点で見切るべきか」は、取引の規模や依存度によって判断が分かれます。一人で抱え込まず、選択肢を整理するために一度ご相談いただくことをおすすめします。
6. 今日からできる記録のチェックリスト

- ✅発注書・契約書・発注メール(取引条件が明示されたもの)
- ✅納品日・役務完了日がわかる記録(納品メール、検収連絡など)
- ✅請求書と送付日
- ✅支払いの催促と、相手の回答(「来月払う」などの約束)
- ✅電話でのやり取りのメモ(日時・相手・内容)
まとめ
支払いの引き延ばしは、「待てば払ってもらえる」と考えている間に回収がどんどん難しくなる問題です。法定期日の経過、約束の反故、信用不安の兆候——いずれかに当てはまったら、それが切り替えのサインです。
当事務所では、取適法・フリーランス法に関するご相談や、未払い報酬・代金の回収をお手伝いしています。「まだ訴えるほどではない」という段階でも、お気軽にご相談ください。

