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事業承継

事業承継と事業継承の違い
 事業承継と事業継承,「承継」(しょうけい)と「継承」(けいしょう)。
 一見して同じような言葉に見えます。

 実際に中小企業の経営者とお話をしていると、どちらかというと「事業継承」という言葉の方が多く使われている印象です。

 法律的な手続きとしては「事業承継」が正しいのです。

 事業「承継」と「継承」違いは何でしょうか?

 「承継」とは、先代の人から「地位・精神・身分・仕事・事業などを受け継ぐ」という意味であり,「継承」とは、先代の人から「義務・財産・権利などを受け継ぐ」という意味のようです。

 少し分かりにくいですね。
 もう少し踏み込んで分析すると

 「継承」とは前任者の地位や身分そのもの(王位継承など)や,前任者が獲得した財産的権利,会社で言えば、経営権など「具体的」なものを受け継ぐのに対し

 「承継」は、前任者の代のもの一切を受け継ぐ,というように「継承」よりも更に広く、より抽象的な意味で使われるようです。

 以上を踏まえて、改めて、なぜ会社を次の代に引き継ぐことを事業「承継」と言い表すかといえば、先代が会社に対して有していた権利,義務,財産一切を受け継ぐから、ということになります。

 事業承継はいわば会社の相続ともいえますが、相続は「被相続人から相続人に対する財産上の権利義務の承継」と定義されることからも
やはり、事業「承継」が正しい表現であるといえます。
事業承継の流れ1
 事業承継とは,「会社の経営権,資産,知的財産」を後継者に引き継ぐことです。

 「会社の経営権」とは,直接的には会社の社長や取締役会など会社の意思決定,業務遂行権ですが,中小企業においては究極的には株式です。

 なぜならば,中小企業では同族会社や殆ど社長に全株式,それに近い株式が集中しているいわゆる「ワンマン会社」が多くを占めており,株主=社長という図式が当てはまるためです。

 株式会社を始めとする法人では株式割合を多く占めている株主がいれば社長や取締役の選任,解任を自由に決められるといっても過言ではありません。

 そのため,中小企業では「会社の経営権」=「株式」といえるのです。

 次に,「資産」です。

 会社が所有する土地,建物等の不動産を相続するにはどうすればよいでしょうか。

 それは,会社の全株式を相続すればいいのです。

 会社が不動産を所有していることと,全株式が不動産を所有していることは同じです。

 ものすごくシンプルに表すと,株式が不動産を所有しているようなものだからです。

 したがって,事業承継により後継者が「経営権」=「全株式」を相続すれば,後継者は会社が所有する不動産,そして,不動産に限らず,会社が所有している不動産を相続したのと同じことになるのです。

 ところが,会社が運営するのに必要な不動産は全て会社所有とは限りません。会社代表者が個人的に所有する土地や建物を会社が借りる形で事業を営んでいる例も少なくありません。

 したがって,会社=株式を相続するだけでは,会社経営を安定して行うことにならない場合もあるのです。なぜならば,会社の敷地や事業所である建物を他の相続人が相続して,会社に対して明渡を求めるという事態も起きかねないからです。

 そのため,このように会社の敷地や事業所が会社代表者の個人資産である場合には,株式とは別に相続しなければならないのです。
事業承継の流れ2
 以上の議論は,車や特許等の知的財産を会社代表者が個人的に所有していて,会社が借りる形で運用や活用していた場合にも当てはまります。

 このように,会社が所有する財産だけではなく,会社代表者が所有する財産まで含めて引き継ぐことを含めて,事業承継なのです。

 これまで述べてきたことは,いわゆる経営権や財産等,会社を経営するのに必要なリソースですが,後継者の方がこれらのリソースだけで会社経営を引き継ぐことができるかといえば,現実的には難しいと思います。なぜならば,経営には経験が必要だからです。

 そのため,次の世代に引き継ぐことを予定している中小企業の多くは,引き継ぐ年度をNとした場合,N-〇年から後継者と目される人を見出し育成しています。この育成にあたってどのようなことをしているかといえば,会社経営のノウハウや経営理念,会社内外の対人関係等,経営者ならではの,経営者にしかできない,長年蓄積してきた,いわば社長の知的財産(特許等とは違います)を引き継いでいるのです。実際の事業承継においても,実は一番難しいのがこの「社長の知的財産」の承継かもしれません。経営権や財産は専門的な知識やノウハウと事前の用意周到な準備があれば理論上は成功させることができますが,「社長の知的財産」の承継は,社長自らの強い決意だけでなく,そもそも後継者候補がいるのかどうか,そして,後継者候補がいたとしても,後継者候補の決意,覚悟,情熱,能力等が必要とされるものであり,理論上成功するとうものでもなく正解もないからです。ただ,逆に言えば,「社長の知的財産の承継」が成功するのであれば事業承継は成功すると言っても過言ではないかもしれません。

 最後に,事業承継にあたって,これまでは経営権や財産,社長の知的財産等,会社のプラス面にスポットを当ててきましたが,当然,会社のマイナス面も考えなければなりません。事業承継をする時点で会社が借金を抱えていれば,会社を承継したことで借金が消えるわけではありませんから,会社の借金も承継するということになります。そして,会社の借金について社長自身が連帯保証していれば,社長から相続をする時に,この連帯保証している部分も相続することになります(例外については後述します)。
事業承継の課題1
 次に,事業承継の手続きを行った方が絶対に良いということはご理解いただけたかと思います。ただ,いざ事業承継に取り組もうとしても,簡単にはいかないことが殆どだと思います。それは,以下のように,事業承継には解決しなければならない多くの課題が存在するためです。

 まずはとにかく適任の後継者探しです。上でも述べましたが,後継者としての決意,覚悟,情熱,能力を備えているか,もしくは,備えられる可能性があるかの見極めが必要です。しかも,後継者の育成には一般的に5年~10年はかかると言われているように,非常に長期間を要する難しい課題であるということがお分かりいただけると思います。

 もし後継者候補が見つからなければ,第三者への承継,すなわち,M&Aも視野に入れて検討を進める必要があります。

 また,経営権=株式の課題もあります。株式は可能な限り後継者候補の方が全株式,もしくは,最低限でも2/3以上の割合の株式を保有しておく必要があります。株式会社の意思決定は基本的に過半数,組織変更や重要事項の決定には2/3以上の議決権が必要とされることが多いためです。もし事業承継対策をしっかり行っておかないと,社長のお子様を後継者として立てる場合,他にご兄弟が存在し相続人が複数になる場合には,相続によって株式が分散し,後継者が会社を承継した後に過半数や2/3以上の議決権を確保できない結果,会社の経営に重大な支障をきたすことがあるためです。そのため,社長が次世代の会社経営を考えるならば,まだまだ健在のうちに後継者に十分な株式を承継できるように綿密に計画を立てておく必要があります。これを資本政策といいます。
事業承継の課題2
 そして,お金の問題です。このお金の問題が事業承継の実施にあたり大きな課題となって立ちふさがります。上で株式の承継が必要と述べましたが,株式も列記とした財産です。もっと言えば,会社の価値そのものであり,一般的には非常に高額な財産です。株式の承継手段としては,大きく分けて,「もらう」「買う」「相続する」がありますが,「もらう」とすれば莫大な贈与税が,「買う」とすれば,高額な買取代金に相当する莫大なお金が,「相続する」のであれば莫大な相続税がかかる可能性があります。つまり,買取資金や納税資金をどこから調達するかという問題が立ちはだかります。もちろん,根本的に株式の価値を下げる,買主を個人ではなく法人にする等の回避策もありますが,法律や税金の知識,ノウハウがないと安心してこれらの回避策を実行することは困難といってよいでしょう。



 このお金の問題に関連することでもありますが,上に述べたように個人保証の問題も事業承継の大きな課題です。せっかく熱意も才能もあるのに先代の保証債務の負担が重くのしかかるのでは事業承継をしようにも躊躇してしまうでしょう。これまでは銀行は後継者の信用度に不安があるため、個人保証の解除に消極的でした。しかし近年になって「経営者保証ガイドライン」が策定され、会社の経営状況によっては個人保証の解除に応じる場合や、解除できない理由を具体的に説明してもらえるケースが増えています。「経営者保証ガイドライン」には強制力はありませんが,一昔前に比べると事業承継へのハードルが下がってきた印象があります。



 このように,事業承継には大きく分けて「後継者候補者をどうするのか?」「対策に必要な資金をどうするのか?」「個人保証をどうするのか?」という課題があり,育成ノウハウ,法律税金の知識や能力,交渉技術等,多岐にわたる専門技術が必要となります。
事業承継と顧問弁護士の必要性
 事業承継に顧問弁護士?と思われるかもしれませんが,事業承継こそ顧問弁護士が必要とされるといっても過言ではありません。
 なぜならば,これまで述べてきたように,事業承継は数年単位の中期に渡っていかに準備をしておくかが,事業承継の結果を大きく左右するものであり,準備に当たっては法律や法律の専門家である弁護士のアドバイスが必要となる場面が非常に多く存在するためです。
 次から一つ一つ見ていきましょう。
事業承継とそれ以外の選択肢と顧問弁護士の関わり方1
 まず,事業承継のコラムにおいてこのような話をするのはおかしいかもしれませんが,そもそも,事業承継をするのかどうかということを決めなければなりません。
 後継者候補がいなければ,もしくは,子供も会社を引き継ぐつもりはなく,社内にも社長候補たりうる人材がいなければ,事業承継は第三者にМ&Aで会社を買い取ってもらうという方法になりますが,М&Aは必ずしも社長にとって良い条件で成立するとは限らず,また,そもそも買受候補となる会社や人が見つからない場合もあります。また,社長自身が長年苦労して会社経営を切り盛りしてこられ,「もう十分にやった」との思いから,面倒な手続きはしないで会社を誰にも引き継がずに畳みたいということも十分にあります。
 私個人の思いとしては,他にはない会社の強み,技術力,製造ノウハウが日本から失われることは非常に勿体ない,日本にとって重大な損失だと考えておりますので,技術を承継せずに会社を畳むことは残念でなりません。
 ですが,今の会社をこれまで築き上げたのは社長です。会社の終わり方,畳み方についても社長がやりたいように決めれば良いのだと思います。取引先のため,社員のため,家族のため,社会のため,等の視点は,私個人としては二の次で良いと思っています。社長自らが本心で継がせたいと思えばそのようにするべきだし,終わらせたい,畳みたい,と思うのであれば廃業するべきだと思います。
 ただし,いくつかの選択肢がある中での決断と,一つしか選択肢がない中での決断では全く違います。一つしか選択肢のない中で決断することは非常に勿体ないことですし,結果的に誤った判断をしたと後悔することも往々にしてあります。そのため,社長には,事業承継,第三者承継,廃業,倒産等,会社の終わり方,終わらせ方についていくつかの選択肢があり,それぞれの選択肢のメリット,デメリットがある,ということを十分に理解した上で,社長自らが欲するような最終決断をしてほしいと思います。

このコラムを書いた人

高瀬芳明

高瀬芳明

略歴

  • 私立早稲田実業高校卒業、 東京大学 農学部卒業
  • 平成18年9月 司法研修所卒業・弁護士登録 横浜市内の法律事務所に入所し企業法務,不動産問題を主に取り扱う
  • 平成19年5月 破産管財人就任
  • 平成21年10月 相模原中央総合法律事務所設立
  • 平成25年6月 弁護士法人高瀬総合法律事務所設立