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「思い込みで契約」「口車に乗せられた」法人の契約、取り消せる場合とできない場合

「思い込みで契約」「口車に乗せられた」法人の契約、取り消せる場合とできない場合

2026年7月15日

はじめに

「あの時、ああ言われたから契約したけど、今思えば早まったかもしれない」

会社を経営していると、こうした後悔をする場面が一度はあるのではないでしょうか。長年の付き合いがある取引先だから安心して契約してしまった、あるいは営業担当者の勢いに押されて契約書にサインしてしまった。契約後によくよく振り返ると、「本当にこの契約でよかったのか」と不安になるケースは少なくありません。

法人間の契約には、個人向けのクーリングオフ制度は適用されません詳しくは「法人はクーリングオフできないの?契約キャンセルのポイントとは?」をご覧ください)。

しかし、クーリングオフが使えないからといって、契約を取り消す方法が一切ないわけではありません。今回は、「思い込み」や「口車に乗せられた」ことを理由に契約の効力を争える可能性がある2つのケースについて、弁護士が解説します。

法人の契約は、「思っていたのと違った」だけでは取り消せない

契約書

まず前提として押さえておきたいのは、契約とは当事者双方の合意によって成立するものであり、後から「こんなはずではなかった」と一方的に思い直しただけでは、原則として取り消すことはできないということです。

企業間の取引は、個人間の取引以上に自己責任が重く問われます。契約書に署名・押印した以上、その内容を理解した上で合意したものとみなされるのが基本です。

ただし、次の2つのケースのように、契約に至る過程に一定の問題があった場合は、例外的に契約の効力を争える可能性があります。

ケース1:知り合いだから、良かれと思って契約した(動機の錯誤)

ケース1:知り合いだから、良かれと思って契約した(動機の錯誤)

「昔からの知り合いの会社だから多分大丈夫」と思って契約したものの思っていたこととは全く違うことが起こっている。
こうした人間関係を理由に、契約内容を十分に精査しないまま契約してしまうケースは、中小企業ではよくあることです。

このように、契約を結んだ「動機」に思い込みや勘違いがあった場合、法律上は「動機の錯誤」として扱われる可能性があります。2020年の民法改正により、動機の錯誤による契約の取消しは民法95条2項に明文化されました。

原則:動機を相手に伝えていなければ、取消しは認められにくい

しかし、ここが実務上のポイントです。民法95条2項は、動機の錯誤を理由に契約を取り消すためには、その動機を相手方に「表示」していたことを要件としています。つまり、心の中で「信頼しているから大丈夫だろう」と思っていただけでは足りず、その動機を相手に伝え、契約の前提としていたことが客観的にわかる状態でなければ、取消しは認められにくいのです。

「信頼していたから細かく確認しなかった」「知り合いだから疑わずに契約した」という事情は、残念ながら多くの場合、自己責任として扱われてしまいます。契約書に署名した以上、内容を確認する機会は本来あったはずだと判断されるためです。

例外:取消しの余地があるケース

一方で、次のような事情があれば、動機の錯誤による取消しが認められる余地があります。

  • ・契約の目的や前提となる事情を、契約書や打ち合わせの中で明確に相手に伝えていた
  • ・相手方がその動機(勘違い)を認識しながら、あえて訂正せずに契約を進めた
  • ・相手方が積極的に「大丈夫、任せてください」などと安心させる言動を取り、それが契約の決め手になった

このあたりの評価は、やり取りの経緯や証拠関係によって大きく左右されるため、個別の状況を踏まえた判断が必要です。

ケース2:口車に乗せられて契約した(詐欺の可能性)

ケース2:口車に乗せられて契約した(詐欺の可能性)

もう一つのケースが、営業担当者の説明や勧誘の勢いに押されて契約してしまったパターンです。この場合、状況によっては「詐欺」(民法96条)による契約取消しを主張できる可能性があります。

強気な営業トークと、違法な欺罔行為の線引き

ただし、ここでも注意が必要です。営業活動には、自社の商品やサービスを積極的にアピールする側面が当然にあります。多少強気な売り込みや、都合の良い部分を強調した説明があったからといって、直ちに「詐欺」と評価されるわけではありません。

詐欺が成立するかどうかの分かれ目は、相手方に「だます意図」があったかどうか、そして事実と異なる説明(欺罔行為)によって、契約するかどうかの判断を誤らせたと言えるかどうかです。単なる説明不足や、後から見れば「もっと確認しておけばよかった」という程度の話では、詐欺として認められるのは難しいのが実情です。

例外:取消しの余地があるケース

一方で、次のような事情があれば、詐欺による取消しを主張できる可能性が高まります。

  • ・契約の重要な条件について、事実と異なる説明を受けていた
  • ・不利な事実をあえて告げず、有利な情報のみを強調していた
  • ・契約を急がせるような不自然な言動があった

このあたりの評価は、やり取りの経緯や証拠関係によって大きく左右されるため、個別の状況を踏まえた判断が必要です。

契約を取り消すために必要な証拠・立証のポイント

動機の錯誤にせよ詐欺にせよ、契約の取消しを主張するためには「証拠」が何よりも重要になります。口頭でのやり取りだけでは、後になって「言った・言わない」の水掛け論になりがちです。

契約を取り消すために必要な証拠・立証のポイント
  • 契約前後のメールやチャットの履歴
  • 打ち合わせの議事録やメモ
  • 契約書に添付された説明資料、提案書
  • 録音データ(可能な場合)

契約を取り消したいと考えたら、まずはこうした資料が手元に残っているかを確認しておくことをおすすめします。

泣き寝入りする前に、早めに弁護士へ相談を

泣き寝入りする前に、早めに弁護士へ相談を

「もう契約してしまったから、諦めるしかない」と考える経営者の方は少なくありません。しかし、動機の錯誤や詐欺による契約の取消しが認められる可能性は、事案ごとの事実関係と証拠次第で変わってきます。ご自身だけで「これは無理だろう」と判断してしまう前に、一度専門家に相談することをおすすめします。

また、こうした主張には時効・期間制限がある点にも注意が必要です。詐欺による取消しは、追認できる時から5年、行為の時から20年で消滅するとされており(民法126条)、動きが早いほど選択肢は広がります。

まとめ

  • ・法人の契約は「思っていたのと違った」というだけでは取り消せないのが原則
  • ・「知り合いだから」という動機の思い込みは、相手に伝えていなければ取消しが認められにくい(動機の錯誤・民法95条2項)
  • ・「口車に乗せられた」場合は、相手の「だます意図」と事実と異なる説明の有無が詐欺(民法96条)の成否を分ける
  • ・いずれも証拠の有無が主張の成否を大きく左右する

契約を取り消したいと感じたら、早めに弁護士へ相談することが選択肢を広げる第一歩です。

高瀬総合法律事務所では、法人間の契約トラブルに関するご相談を数多くお受けしています。「この契約、本当に取り消せないのか」とお悩みの方は、お早めにご相談ください。

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このコラムを書いた人

高瀬芳明

高瀬芳明

略歴

  • 私立早稲田実業高校卒業、 東京大学 農学部卒業
  • 平成18年9月 司法研修所卒業・弁護士登録 横浜市内の法律事務所に入所し企業法務,不動産問題を主に取り扱う
  • 平成19年5月 破産管財人就任
  • 平成21年10月 相模原中央総合法律事務所設立
  • 平成25年6月 弁護士法人高瀬総合法律事務所設立