
元役員が株を持ったままの場合はどうする?経営者側から見た少数株主の株式問題
2026年9月15日
役員や共同経営者が退任したにもかかわらず、会社の株式を保有したままになっている。
中小企業では決して珍しくないケースです。
在任中は問題がなくても、退任後に関係が悪化すると、「株を買い取ってほしい」「提示された買取価格では納得できない」「第三者へ株を売りたい」「会社の帳簿を見せてほしい」など、株主としての権利をめぐる問題に発展することがあります。
経営者としてまず知っておきたいのは、役員を退任したからといって、その人が自動的に株主ではなくなるわけではないということです。
元役員・共同経営者が株式を持ったままになっている場合、会社側はどのような点に注意し、どのような対応を検討すべきなのでしょうか。
役員を辞めても株式はそのまま残る

取締役や代表取締役という「役員としての地位」と、「株主としての地位」は別のものです。
そのため、会社を退職したり役員を退任したりしても、本人が保有する株式が当然に会社へ返還されるわけではありません。
元役員が株式を10%、20%と保有していれば、退任後も株主として議決権などを持ち続けます。
さらに、一定の要件を満たす株主には、会計帳簿の閲覧・謄写請求など、会社の経営状況を確認するための権利も認められています。
「もう経営には関与していないから問題ない」と放置していたところ、数年後に株主として権利を行使され、会社側が対応を迫られるケースもあります。
元役員・少数株主を放置することで起こる問題

株式の買取価格をめぐって揉める
実務上、特に問題になりやすいのが株式の価格です。
元役員から「退任するので自分の株を買い取ってほしい」と言われても、非上場会社の株式には上場株式のような市場価格がありません。
会社側が数百万円程度と考えている一方で、元役員側は会社の純資産や将来の収益を理由に数千万円を主張するなど、双方の認識が大きく異なることがあります。
非上場株式の評価には複数の考え方があり、会社の資産、収益力、配当、株式の保有割合などによっても検討内容が変わります。
そのため、根拠のない金額を先に提示してしまうのではなく、株式の評価方法を確認したうえで交渉を進めることが重要です。
「辞めたのだから株を返して」は原則としてできない

経営者側から、
「もう会社を辞めたのだから株を売ってほしい」
「元役員が株主として残っているのは困る」
と考えることもあるでしょう。
しかし、株式は株主本人の財産です。原則として、会社側の都合だけで強制的に取り上げることはできません。
まず検討することになるのは、本人との合意による株式譲渡です。
現在の経営者や他の株主が買い取る方法のほか、一定の要件と手続を満たせば、会社自身が自己株式として取得する方法もあります。
ただし、会社による自己株式の取得には会社法上の手続や財源規制があります。会社に現預金があるからといって、自由にその資金を使って株式を買い取れるとは限りません。
税務上の影響も生じるため、必要に応じて弁護士と税理士が連携して検討することになります。
第三者へ株式を売ると言われたらどうする?

多くの中小企業では、定款によって株式の譲渡に会社の承認を必要とする「譲渡制限」が設けられています。
これは、会社にとって望ましくない第三者が株主になることを防ぐための仕組みです。
もっとも、「譲渡制限があるから会社が拒否すれば終わり」とは限りません。
株主から正式に譲渡承認の請求があり、会社がその譲渡を承認しない場合、会社や指定買取人による株式の買取りが問題となることがあります。
その場合には、誰が株式を取得するのかだけでなく、買取価格についても争いになる可能性があります。
元役員から「第三者へ株式を売却したい」と連絡を受けた場合には、定款、株主名簿、株式の種類などを確認し、会社法上の手続に沿って対応する必要があります。
少数株主でも会社に影響を与える場合がある

「10%程度しか持っていないから経営には影響しない」と考えるのも注意が必要です。
少数株主であっても、保有割合などの条件によっては、会社法上認められたさまざまな株主権を行使できる場合があります。
また、株主総会の決議内容によっては、一定割合の反対株主が存在することで重要な意思決定を進めにくくなることもあります。
特に問題が表面化しやすいのが、M&Aや事業承継を行う場面です。
会社を売却しようとしたところ、何年も前に退任した役員が株式を持ったままだったため株式を100%取得できない、株式の買取条件をめぐって交渉が難航するといったケースがあります。
将来的にM&Aや事業承継を考えているのであれば、早い段階で株主構成を確認しておくことが重要です。
合意できない場合に少数株主を整理する方法はある?

株主本人との話し合いで株式譲渡に合意できれば、それが最もシンプルな解決方法です。
しかし、関係が悪化している場合や、株価について大きな隔たりがある場合には、合意できないこともあります。
会社法には、一定の条件のもとで少数株主の株式を整理する制度があります。
例えば、総株主の議決権の90%以上を保有する特別支配株主には、会社の承認など所定の手続を経たうえで、他の株主に株式の売渡しを請求できる制度があります。
また、事案によっては株式併合を利用したスクイーズアウトが検討されることもあります。
ただし、こうした方法では、手続の適法性や株式の取得価格をめぐって紛争になる可能性があります。
「少数株主だから排除してしまえばよい」という発想で手続を進めることは避け、株主構成、目的、株価、今後の経営計画まで含めて検討する必要があります。
相続によって株主がさらに増えることも

元役員の株式を放置している間に、その株主が亡くなることもあります。
その場合、株式が相続され、配偶者や子どもなど複数の相続人が関係することがあります。
結果として、会社とはほとんど関係のない人が株式を承継し、株主関係がさらに複雑になることも考えられます。
譲渡制限株式については、定款に定めを置くことで、相続などによって株式を取得した者に対して会社が売渡しを請求できる制度もあります。
もっとも、これにも会社法上の要件や手続があります。
事業承継を考えるのであれば、経営者自身の株式だけでなく、元役員や少数株主が保有している株式も含めて整理しておく必要があります。
少数株主対策として安易な新株発行をするのは危険

元役員との関係が悪化した際、
「新株を発行して相手の持株比率を下げればよいのではないか」
と考えるケースがあります。
しかし、特定の株主の影響力を弱めることを目的とした新株発行については、その目的や状況によって法的な問題となる可能性があります。
また、株主からの正当な請求を無視する、株主総会の通知を送らないなどの対応も、新たな紛争につながります。
株式問題では、相手の要求への対応だけを見るのではなく、現在の株主構成や定款、過去の株式譲渡の経緯まで確認して対応方針を決めることが重要です。
元役員・少数株主の株式問題は早めに弁護士へ相談を

元役員や少数株主が株式を保有していること自体が、直ちに問題になるわけではありません。
しかし、
- ・退任した役員が株式を持ったままになっている
- ・共同経営者との関係が悪化した
- ・株式を買い取ってほしいと言われている
- ・買取価格について折り合わない
- ・第三者へ株式を譲渡すると言われた
- ・帳簿閲覧など株主としての権利を行使されている
- ・将来的にM&Aや事業承継を予定している
といった場合には、問題が大きくなる前に対応を検討した方がよいでしょう。
非上場会社の株式問題では、株式譲渡だけでなく、会社法上の手続、株価、税務、経営権、相続、M&Aなど複数の問題が関係します。
髙瀬総合法律事務所では、会社・経営者側の立場から、現在の株主構成や定款、これまでの経緯を確認し、株式の買取交渉、株式譲渡契約、少数株主への対応などについて検討します。
「元役員の株式を今のうちに整理しておきたい」「少数株主から要求を受けて対応に困っている」といった場合には、紛争が本格化する前に一度ご相談ください。

