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秘密保持契約(NDA)

秘密保持契約その1
今回は、秘密保持契約(NDA)についてお話しします。
10年前と比べてNDAに関するご相談,ご依頼は格段に増えました。
時代の移り変わりを感じます。弊所でも平均して月に5件ほどチェックをしております。
NDAは他の契約に比べて内容がイメージしやすくとっつきやすいイメージがあるので,安易に契約しがちですが,実は注意すべき点は相当あります。
また,後に述べますが,NDAは契約しただけで安心してはならず,実はその運用こそが重要な典型的な契約です。

まず,NDA契約を締結するにあたって,取引先との対応で注意するべきことがあります。
良くご相談を受けるのは,いわゆる大手から共同開発を持ち掛けられ,共同開発契約をする前の企画,交渉段階として,とりあえずNDA契約を締結するので内容をチェックしてほしいというものです。
その際に,ご相談者は「NDAさえ締結すれば弊社の秘密は漏れないから安心だ」と思ってしまうかもしれません。しかし,これが重大な落とし穴になる可能性があるのです。
つまり,NDAを締結したとしても,その後に共同開発契約の締結に「至らなかった」場合はどうなってしまうか考えてください。こちらから開示した営業秘密や技術情報だけを先方に持っていかれてしまうだけという結論になってしまいます。確かにNDAでは契約終了後も2年程度は秘密保持規定等が有効ですが,重要な情報をただただ持っていかれただけという結論は不安で仕方ありませんし,何よりも全くメリットがありません。
したがって,交渉担当者の方に気を付けていただきたいのは,NDA契約締結段階では,「弊社は〇〇のような技術を保有している」程度にとどめ,「その技術を組成する素材や製造工程,製造技術」などの「外部から検出できない機密情報」は絶対に開示するべきではないし,NDAを締結したら開示すると安易に先方に約束してはいけません。

このように,まずNDA締結に臨むスタンスについてお話しした後,次回からNDA契約の本体に切り込んでいきたいと思います。
秘密保持契約その2
今回は、秘密保持契約(NDA)の内容についてお話しします。
まず,秘密保持契約においては,目的をしっかりと明記することが重要です。
レビューをしていると,この点が全く書いていなかったり,かなり曖昧模糊としている契約書が珍しくありません。
なぜ重要かといいますと,秘密保持契約は大きく分けると,秘密保持義務と目的外使用禁止義務で構成されますが,この2つの義務の範囲が曖昧になる結果,契約当事者が負う義務も曖昧となって,契約が有名無実なものになってしまうからです。
具体的に書きます。
たとえば,「A社とB社の共同研究開発の可能性を検討する目的」を秘密保持契約の目的とします。
これだけですと,どのような内容の共同研究開発なのか,共同研究開発の対象は何なのか,A社とB社がこの共同研究開発に対してどのような情報,知見,技術,素材等を提供するのか,全く分かりませんよね。
そうすると,必然,AとBがお互いに開示し合う(それについて秘密保持義務を負う)情報が一体どこまでの範囲なのかも全く判断できなくなってしまうのです。 加えて,目的外使用禁止義務についても同様です。
そもそも,目的外使用禁止義務がなぜ必要かといいますと,秘密保持義務だけだと,その秘密を利用して他の製品を製造し販売したとしても,外部にその秘密を漏洩しない限り秘密保持義務違反とならないため,「秘密を利用」することを別途禁止しなければならないからです。レビューをしていると,目的外使用禁止義務について全く規定を設けていない契約書を見ることは珍しくありませんので,注意が必要です。
その上で,目的外使用禁止義務との関係で目的を明確にする必要があるのは,目的を明確にして限定することで,その秘密情報は「明確かつ限定された目的においてのみ使用可能」と定めることで,秘密情報を使用する範囲を極力狭く限定する機能を持つに至るためです。

以上の通り,秘密保持契約において目的を可能な限り明確かつ具体的に限定する必要性をお分かりいただけたと思います。次回も秘密保持契約についてその他注意するべき点についてお話ししたいと思います。
秘密保持契約その3
今回は,秘密保持契約(NDA)を締結したとして,運用上注意すべき点についてお話しします。

まず,1点目,たとえば,A社とB社が共同研究開発目的でNDAを締結し,その後,共同研究開発段階で,A社からB社に対して,Xという秘密情報(以下,単に「X」とします)を開示したとします。

その後,共同研究開発は結局途中で頓挫してしまい,A社,B社はそれぞれ自社開発して製品を販売していました。ところが,ある時,B社が自社開発した製品に対して,A社からB社に対して,「現在御社が販売している製品には,当社が御社に対して共同研究開発過程で開示したXを無断で利用しているから,秘密保持契約(目的外使用禁止義務)違反である。」と主張したとします。しかしながら,B社の認識としては,Xを受領した認識がありませんでした。このような場合,A社とB社はそれぞれどのような状況になると困るでしょうか。

A社の立場で考えてみましょう。共同研究開発目的でXを開示したのが数年前(NDA終了後の有効期間内)であるため,XをB社に開示した記録が残っていない場合です。

逆にB社の立場ではどうでしょうか。同様に,XをA社から受領した記録が残っていない場合,更に言えば,秘密情報の受領の有無についてA社に確信を以て示せる資料がない場合です。

以上からお分かりのように,秘密情報の授受について,しっかりと記録化,そして,保管,管理する体制を構築していないと,上記のようなケースで「開示した」「受領した」という証明ができなくなってしまうのです。

したがって,NDAに関しては,締結しただけで安心しきってはならず,その後の秘密情報のやり取りを「しっかりと記録化,保管,管理する」且つ「相手方に対して開示したか,受領したかを,後日証明できるような形で残しておく」ことこそが重要です。後者に関しては,メールを通じて,開示又は受領した秘密情報の一覧表をやり取りして相手方の確認を取っておくだけでも何もしないよりは十分といえますので,ご参考いただければと思います。
秘密保持契約その4
今回は,秘密保持契約(NDA)を締結したとして,運用上注意すべき点の2点目についてお話しします。

前回の続きですが,改めて事例設定をします。

A社とB社が共同研究開発目的でNDAを締結し,その後,共同研究開発段階で,A社からB社に対して,Xという秘密情報(以下,単に「X」とします)を開示したとします。

その後,共同研究開発は結局途中で頓挫してしまい,A社,B社はそれぞれ自社開発して製品を販売していました。ところが,ある時,B社が自社開発した製品に対して,A社からB社に対して,「現在御社が販売している製品には,当社が御社に対して共同研究開発過程で開示したXを無断で利用しているから,秘密保持契約(目的外使用禁止義務)違反である。」と主張したとします。

その結果,B社で確認したところ,確かに「XをA社から受領した」ことが確認できました。

しかしながら,B社は言い分として,「受領当時,Xは既にB社は保有している情報であって,秘密保持の対象ではない。」と主張したいという場面を想定します。




普段はあまり気にしない部分かもしれません。

しかし,御社で締結したNDAを確認してみてください。

その中には,秘密保持の対象の例外として,「受領当時,既に保有していた情報は除く。」

と記載されていることが多いと思います。

むしろ,記載されていないと問題です。




そうだとして,問題は「B社が受領当時,既に自社内にてXという情報を保有していたこと」を証明できるか?ということになります。

裁判でも,そして,裁判前の協議,交渉段階であっても,証明できなければそれは「なかったこと」として扱われ不利になってしまいます。

さて,このような場合に「証明できない」なんてことにならないように普段から対策を講じておく必要があることはご理解いただけたと思います。

どのような対策が適切化はお近くの弁護士にご相談されてもよいかと思いますが,例えば,

秘密情報なるものを相手方から受領する都度,自社内で保有しているかをチェックし,保有している場合には,メールでも良いのでその旨を返信し,さらに,相手方から了承の返信を取り付けておく,これだけでも何もしないよりは十分すぎるといえますので,ご参考いただければと思います。

このコラムを書いた人

高瀬芳明

高瀬芳明

略歴

  • 私立早稲田実業高校卒業、 東京大学 農学部卒業
  • 平成18年9月 司法研修所卒業・弁護士登録 横浜市内の法律事務所に入所し企業法務,不動産問題を主に取り扱う
  • 平成19年5月 破産管財人就任
  • 平成21年10月 相模原中央総合法律事務所設立
  • 平成25年6月 弁護士法人高瀬総合法律事務所設立