
業務委託と雇用契約の違い|契約内容だけじゃ決まらない!
2025年5月20日
名ばかり業務委託のリスク、労基署とのトラブル事例
「業務委託契約を結んでいたはずが、実態は“雇用”だと指摘された…」
「労基署から呼び出しを受けたが、どこが問題なのか分からない…」
こうしたトラブルは、契約書の書き方だけで防げるものではありません。
実際の「働き方」や「指揮命令の有無」など、労務の実態が判断のカギになります。
本記事では、企業法務に詳しい弁護士が「業務委託」と「雇用契約」の違いとリスクについて解説します。
1. 業務委託契約とは?雇用契約との法的な違い

まずは、両者の基本的な違いを整理しましょう。
契約の種類 | 内容 | 法的性質 |
---|---|---|
業務委託契約 | 業務の完成や遂行を依頼する契約(請負・準委任) | 民法が適用され、労働法の保護なし |
雇用契約 | 使用者の指揮命令のもとで労務を提供する契約 | 労働基準法など、各種労働法が適用される |
業務委託では、原則として労働時間の管理や業務内容の指示はありません。
一方、雇用契約では、指揮命令・労働時間の拘束・労働場所の指定などがあるのが通常です。
2. 契約書の形式より“実態”が重視される理由

企業としては、「業務委託契約」にしておけば、社会保険料や労働保険料の負担を避けられると考えることもあるかもしれません。
しかし、契約書で“業務委託”と書いてあっても、実態が“雇用”であれば、労働法上の問題が生じます。
以下のような要素がある場合、「雇用」と判断される可能性が高まります。
- ✅業務時間や休日を企業が決めている
- ✅業務の具体的な指示を企業が出している
- ✅勤怠打刻やタイムカードで勤務管理されている
- ✅報酬が出来高ではなく、月給や時給で支払われている
- ✅業務専従で他社業務を禁止されている
実態が雇用であれば、労働者とみなされ、最低賃金や残業代、社会保険などの義務が生じます。
3. 名ばかり業務委託のリスク|労基署の是正勧告・裁判事例も

「名ばかり業務委託」とは、実態は雇用であるにもかかわらず、形式だけ業務委託として契約している状態です。
近年では、以下のようなトラブルが増加しています。
【事例①】フリーランス契約のはずが残業代請求
劇団とフリーランス契約を結んでいた劇団員が、実際には定められた稽古日程や舞台スケジュールに従って行動し、演出家の細かな指示を受けながら稽古・公演に従事していた。
報酬も月額制であり、勤務時間や場所も事実上拘束されていたため、裁判では“実態は雇用契約である”と認定。未払賃金や残業代の請求が一部認容された(東京高裁・令和2年9月3日判決/エアースタジオ事件)。
参考資料:全国労働基準関係団体連合会 労働基準判例「エアースタジオ事件」
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/09378.html
【事例②】配達員の労災認定
デリバリー配達員との業務委託契約であったが、配達ルート・服装・報告義務などが厳格に定められていた → 労災事故が発生し、「実質雇用」と認定され企業に責任。
参考資料:東京都U事件(令和2年不第24号事件)命令書交付について
4. トラブルを防ぐための企業側の対応策

名ばかり業務委託のリスクを避けるには、以下のような対応が不可欠です。
✅ 契約書だけでなく「実態」に基づいた設計を行う
✅ 指揮命令や拘束時間を明確に分ける
✅ 勤怠管理・報酬形態・使用備品などの点を見直す
✅ 必要に応じて業務委託マニュアルを整備する
✅ 弁護士に相談し、労務リスクを法的にチェックしておく
5. 弁護士に相談することで安心が得られます

雇用・労務トラブルは、経営において非常に身近で避けがたい課題です。
実際、企業の法的課題として最も多く挙げられているのが雇用・労務問題であることからも、その重要性がうかがえます。
契約管理や労務トラブルへの対応には、企業法務に精通した弁護士のサポートが非常に効果的です。
雇用・労務問題で弁護士がサポートする内容
- ✅契約形態と業務実態の整合性チェック
- ✅業務委託契約書・就業規則のレビュー
- ✅労基署対応、是正勧告・訴訟リスクの助言
- ✅労働者側からの請求対応(残業代・労災など)
早期相談でリスクを可視化し、トラブルを未然に防ぐことができます。
おわりに|契約の「中身」と「運用」の整合性が鍵
業務委託と雇用契約は“名前”で決まるものではありません。
実際の働き方に矛盾があると、企業側に大きな責任が生じます。
企業の成長と信頼を守るためにも、労務リスクの見直しと弁護士への相談をおすすめします。