
【弁護士解説】遺言書は動画でもOK?法的に有効?無効?
2025年6月18日
「これって遺言になりますか?」──スマホに残された”最後の言葉”
「父がスマホで遺言を残してたんですけど、これって遺言になりますか?」
そう言って、相談者がスマホを取り出し画面の再生ボタンを押した。
画面の向こうで、白髪まじりの男性が穏やかな笑みを浮かべて語り出す。
「●●!元気にやっているか?この動画を見るころには、私はもうこの世にはいないだろうな。
遺言を書くより、言葉で伝えたいと思って、この動画を撮っている。
私、××の財産は……長男の●●にすべて譲る!
▽▽!□□!長男の●●を支えて、みんなで仲良くやってくれ!
けんかなんかするなよ。家族は一つだ。頼んだぞ。」
動画は約1分半。
一気に言い切ったあと、照れくさそうに父は笑い、動画は終わった。
無言のまま、相談者がスマホを伏せる。
そして相談者は、少し力の抜けたような笑みでこう言った。
「こんなの、仲良くなんてできないですよね?
いきなり“全部、長男に譲る”って……。
これ、遺言として認められるんですか?」
――さて、あなたならどう思いますか?
※上記エピソードは、実際の法律相談で扱われたテーマをもとに、個人の特定を避けるために登場人物・状況等を再構成したフィクションを含んでいます。理解を深める目的で創作的要素を交えており、実際の事案そのものではありません。
スマホやSNSが当たり前となった今、「動画で遺言書を残す」という発想は自然かもしれません。では、動画による遺言は法的に有効なのでしょうか?
法律の専門家である弁護士の立場から結論を申し上げると――
原則として、動画だけで作成された遺言は「法的に無効」です。
前置きが長くなりましたが、本コラムでは、「動画で遺言はできるの?」「何が法的に有効?」「弁護士から見たリスクと注意点」など遺言について、一問一答形式でわかりやすく解説します。
Q. 動画で「財産は長男に全部やる」と言っていた。これって有効な遺言?

A. 無効です。
民法では、遺言が有効となるための「方式」が定められています。動画だけではその方式を満たさないため、法的効力はありません。
Q. でも本人の意思ははっきりしてるし、感情も伝わってる。それでもダメ?

A. 感情が伝わることと法的効力は別問題です。
動画は「想いを残す手段」としては素晴らしいですが、相続をめぐる紛争では法律がすべてです。想いが通じていても、法的に有効な書面による遺言書がなければ、争いの火種になります。
Q. じゃあ動画は一切意味がない?

A. 実は、補助的な証拠になる可能性があります。
たとえば、遺言能力(判断能力)の有無が争われたとき、動画により「しっかりした口調で話している」「当時の健康状態がわかる」などの証拠になることもあります。
また、本人の意思を家族に伝えるメッセージとして動画を残すのは有効な手段です。
Q. 弁護士が勧める「安心できる遺言の方法」は?

A. 公正証書遺言がおすすめです。
公証人と証人2名の立ち会いのもと作成されるため、形式ミスで無効になる心配がありません。また、家庭裁判所の検認も不要です。
動画はあくまで「補足」。遺言の本体はきちんと法律にのっとって書面で残すことが大切です。
Q. 公正証書って何?

A. 公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公的な文書です。
遺言書をこの形式で作成すると、「公正証書遺言」と呼ばれ、法律上最も確実で、無効になるリスクが低い方法です。
Q. 自分で紙に書いた遺言じゃダメなんですか?

A. ダメではありませんが、注意が必要です。
自筆で書いた遺言(自筆証書遺言)も民法で認められていますが、下記のようなデメリットがあります。
- ■書き方を間違えると無効になる可能性が高い
- ■家庭裁判所で**「検認」**という手続きが必要になる
- ■偽造・変造・紛失のリスクがある
- ■発見されずに終わることもある
つまり、せっかく遺言を書いても、実際に効力を発揮しない可能性があるのです。
Q. 公正証書遺言って、どうして安心なの?
A. 以下の理由で、公正証書遺言は「最も安全な遺言方法」と言えます。
項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
---|---|---|
法的効力 | ◎ 高い(原則有効) | △ 書き方次第で無効リスクあり |
検認(裁判所手続) | 不要 | 必要 |
紛失・偽造リスク | ほぼなし(原本は公証役場で保管) | あり |
専門家チェック | 公証人が関与 | 基本的に本人のみ |
弁護士や公証人に相談しながら作成するため、「本当にその人の意思に基づいて作られた」ことが証明しやすく、相続トラブルの予防にもなります。
動画で遺言を残すということ
スマホで動画を撮るだけで、大切な「遺言」が済むなら――
そう思うのは、自然なことです。表情や声、感情まで伝えられる動画には、**書面にはない“温度”**があります。
しかし、法的には「動画だけの遺言」は無効です。
どれほど気持ちがこもっていても、法律の要件を満たしていなければ遺言として認められません。
動画遺言は、あくまで想いを伝える手段のひとつ。
実際の相続を円滑に進めるためには、**法的に有効な書面(特に公正証書遺言)**をきちんと残すことが大切です。
▼動画と書面の遺言を比較すると…
項目 | 動画 | 書面(公正証書遺言など) |
---|---|---|
法的効力 | ✕ 無効 | ◯ 有効(原則として認められる) |
感情表現 | ◯ 表情・声・語り口が伝わる | △ 文面のみ |
相続争いの回避 | △ 補足資料にはなるが不十分 | ◯ 効力が明確で争いを予防しやすい |
作成の手軽さ | ◯ スマホで即録画できる | △ 手続きや費用が必要 |
“想い”を伝えるのが動画、“効力”を保証するのが書面。
その両方をうまく使い分けることで、残されたご家族が迷わない、争わない相続を実現することができます。
動画で語りかけたい気持ちは大切にしつつ、法的には書面でしっかりと残す――それが本当に「想いをカタチにする」方法です。
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