事業承継かM&Aか廃業か。それぞれの課題と対応策。なぜ弁護士が必要なのか?
2022年10月29日
経営者としての引退を考えはじめたら、まずは事業承継するか、廃業するかを決めなくてはなりません。基本的には事業承継、第三者承継、廃業といった選択肢がありますが、それぞれ課題もあるため、それらを十分に理解した上で最終決断をしていただくのが良いでしょう。本コラムでは、事業承継する場合と廃業する場合それぞれの課題について解説します。
事業承継する場合の課題
事業承継する場合、1番難しいとされているのが適任の後継者探しです。後継者として相応の決意や覚悟があり、情熱、能力も備えている後継者を探し、育成するには、一般的に5年~10年はかかると言われています。また、社長が次世代の会社経営を考えるならば、まだまだ健在のうちに後継者に十分な株式を承継できるように綿密に計画を立てておく必要があります。これを資本政策といいます。
事業承継で事業を引き継ぐ後継者は、可能な限り、全株式もしくは、最低でも2/3以上の割合の株式を保有しておく必要があります。これは、株式会社の重要事項の意思決定は基本的に2/3以上の議決権が必要とされることが多いためです。仮に、お子様に事業承継する場合、他のご兄弟と分割して株式の相続を行うと、後継者が会社の意思決定を行う際に必要な議決権を確保できず、経営に大きな支障をきたす可能性も出てきます。
基本的に株式の承継はには大きく分けて①もらう ②買う ③相続の3つのパターンがあり、「もらう」場合は贈与税、「買う」場合は買取代金、「相続」の場合は相続税といった、いずれも莫大なお金がかかるのも課題のひとつです。
根本的に株式の価値を下げることや、買主を個人ではなく法人にする等の回避策もありますが、これらは法律や税金の知識やノウハウがないと実行することは困難といってよいでしょう。
さらに、個人保証の問題も事業承継の大きな課題です。せっかく熱意も才能もあるのに先代の保証債務の負担が重くのしかかるのでは事業承継をしようにも躊躇してしまうでしょう。以前の銀行は後継者の信用度に不安があるため、個人保証の解除に消極的でしたが、近年になって「経営者保証ガイドライン」が策定され、会社の経営状況によっては個人保証の解除に応じる場合や、解除できない理由を具体的に説明してもらえるケースが増えるなど、以前に比べ事業承継へのハードルは下がってきています。但し「経営者保証ガイドライン」には強制力がないため、交渉のノウハウなどが必要です。
このように、事業承継には大きく分けて「後継者候補者をどうするのか?」「対策に必要な資金をどうするのか?」「個人保証をどうするのか?」という課題があり、育成ノウハウや法律税金の知識や能力、交渉技術など、多岐にわたる専門技術が必要になってきます。
M&Aを利用する場合の課題
もし後継者候補が見つからなければ事業承継は第三者にМ&Aで会社を買い取ってもらうという方法もありますが、М&Aは必ずしも社長にとって良い条件で成立するとは限りません。売却後のトラブルを防ぐためには、売却、購入、いずれの場合も潜在的に存在するリスクを洗い出して(デューデリジェンス)契約条件に反映させたり、売却条件や売却後の待遇、売却後会社に関して責任を負わないことなどを法的に保全する必要があります。弁護士が介入し、しっかりと契約書を交わすことで後のトラブルを防ぎ、また、購入側、売却側いずれの立場でも、売却金額が有利になる可能性もあります。
廃業する場合の課題
廃業すると、それまで培われてきた、会社の強みや技術力、製造ノウハウなどが失われることとなります。技術を承継せずに会社を畳むことは日本にとって重大な損失です。それでも廃業がやむ終えない場合、最大の課題は、一緒に働いてきた従業員が職を失ってしまうことです。また、債務を完済出来ないと破産の手続きも必要になってきます。
このように、どの選択肢を取ってもそれぞれ課題があり、トラブルや面倒を出来るだけ回避するためには、どうしても専門知識が必要になってきます。特に事業承継する場合は、数年単位の中期に渡って、いかに綿密に準備出来るかが事業承継の結果を大きく左右するものです。準備に当たって、法律や税金、後継者の育成のノウハウを持った専門家に早めに相談することが事業承継の成功への近道と言えるでしょう。